新型コロナウイルス研究に適した動物モデルの確立状況 [コロナウイルス]
今有名科学雑誌CNSの一つ「サイエンス」は、これに関するリサーチやニュースを無料で公開してくれているのを今日知りました。
Coronavirus: Research, Commentary, and News
その中で一つの記事が目に入りました。
Mice, hamsters, ferrets, monkeys. Which lab animals can help defeat the new coronavirus?
動物愛護団体が何を言おうと、パンデミックに流行しているコロナウイルスに対し治療方法及びワクチン開発のために動物の治験モデルを確立することは非常に重要です。読み解いてみました。
結論から言うとSARSを起こすウイルス同様、ハムスターが新型ウイルスに感染すると人間に近い症状が出るようです。備忘録になりますが、査読がすんだ以下の論文に報告されていました。
Simulation of the clinical and pathological manifestations of Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) in golden Syrian hamster model: implications for disease pathogenesis and transmissibility
(香港大学の医師・科学者であるJasper Fuk-Woo Chanらが最近8匹のハムスターを新型ウイルスに感染させた場合、その動物は体重減少や無気力、波状毛皮、丸まった姿勢、そして頻呼吸を発症させた。高レベルのSARS-CoV-2が、ウイルスの標的であるアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)と呼ばれるたんぱく質受容体とともにハムスターの肺や腸の組織で見つかった)
同様な結果がウイルス学者の河岡先生の研究室でも紹介されていましたね(4月12日放送の情熱大陸を参照)。
1つ興味深いことが書いてありました。
(あるサルの研究では、SARS-CoV-2感染をクリアした動物が少なくとも1か月は再感染に抵抗できることが示されていた。)
これは感染で出来た抗体がサルでは少なくとも1か月は有効である可能性があることを示唆しています。ただ問題なのはサルの場合、コロナウイルスに感染しても症状は穏やかのため、必ずしも人間も同様であるかはわかりかねるようです。この原因はACE受容体のたんぱく質構造にあるようです。
(マウスでは重要なドメインにある29のアミノ酸のうち11のアミノ酸構造がヒトのそれとは異なっていた。ラットでは13の違いがあるが、ハムスターには4つしかない。)
普通に考えてヒトの受容体の構造に近ければ、新型ウイルスがそこにくっついて感染する割合も同様になりそうですから、納得です。
アデノウイルスを利用してマウスでもヒトのACE受容体を発現するようにしたものがアイオワ大学で開発されているようですが、ヒトの症状を出しそうなマウスを作り出すには時間がいるようです。またJackson LabではCRISPR Cas9システムを用いて同様なマウスを作ろうとしたり、逆にノースカロライナ大学ではマウス本来のACE受容体によくくっつくよう、ウイルスの構造を変えたりする試みがなされているようです。他のグループではラットによる動物モデル開発も進んでいる、と紹介されていました。
他の動物だとフェレットが候補のようです。インフルエンザの研究ではヒト同様に感染するだけでなく、くしゃみをしてウイルスをまき散らすようです。ただ新型ウイルスに関しては体温上昇が認められるものの、その他の症状はなかったと報告されていました。
Infection and Rapid Transmission of SARS-CoV-2 in Ferrets
ただこの動物は口からウイルスを飛ばすので、飛沫感染やエアロゾルによる空気感染の可能性を探ることが出来たり、ヒトと同様年齢が高いフェレットで重症化の例が見られたりしているので、引き続き検討の余地があることが書かれていました。
最後にサルによる治験の有意性も描述されていました。くしゃみするだけでなく、ウイルス感染に対してワクチンによる免疫反応の変化を検証できるのもヒトに限りなく近いサルならではです。
新型ウイルスの治験モデルを決定する過程においていまだ基本的な作業を行っている段階ですが、着実に前に進んでいると感じました。こんな厳しい状況で研究を継続されている方々に対し、頭が上がりません。
Coronavirus: Research, Commentary, and News
その中で一つの記事が目に入りました。
Mice, hamsters, ferrets, monkeys. Which lab animals can help defeat the new coronavirus?
動物愛護団体が何を言おうと、パンデミックに流行しているコロナウイルスに対し治療方法及びワクチン開発のために動物の治験モデルを確立することは非常に重要です。読み解いてみました。
結論から言うとSARSを起こすウイルス同様、ハムスターが新型ウイルスに感染すると人間に近い症状が出るようです。備忘録になりますが、査読がすんだ以下の論文に報告されていました。
Simulation of the clinical and pathological manifestations of Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) in golden Syrian hamster model: implications for disease pathogenesis and transmissibility
When physician scientist Jasper Fuk-Woo Chan of the University of Hong Kong (HKU) and co-workers recently infected eight hamsters, the animals lost weight, became lethargic, and developed ruffled fur, a hunched posture, and rapid breathing. High levels of SARS-CoV-2 were found in the hamsters’ lungs and intestines, tissues studded with the virus’ target, a protein receptor called angiotensin-converting enzyme 2 (ACE2).
(香港大学の医師・科学者であるJasper Fuk-Woo Chanらが最近8匹のハムスターを新型ウイルスに感染させた場合、その動物は体重減少や無気力、波状毛皮、丸まった姿勢、そして頻呼吸を発症させた。高レベルのSARS-CoV-2が、ウイルスの標的であるアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)と呼ばれるたんぱく質受容体とともにハムスターの肺や腸の組織で見つかった)
同様な結果がウイルス学者の河岡先生の研究室でも紹介されていましたね(4月12日放送の情熱大陸を参照)。
1つ興味深いことが書いてありました。
One monkey study has already shown that animals that clear a SARS-CoV-2 infection can resist reinfection for at least 1 month.
(あるサルの研究では、SARS-CoV-2感染をクリアした動物が少なくとも1か月は再感染に抵抗できることが示されていた。)
これは感染で出来た抗体がサルでは少なくとも1か月は有効である可能性があることを示唆しています。ただ問題なのはサルの場合、コロナウイルスに感染しても症状は穏やかのため、必ずしも人間も同様であるかはわかりかねるようです。この原因はACE受容体のたんぱく質構造にあるようです。
In the mouse, 11 of 29 amino acids of this critical domain differed from the human version. (Rats had 13 differences, but hamsters only had four.)
(マウスでは重要なドメインにある29のアミノ酸のうち11のアミノ酸構造がヒトのそれとは異なっていた。ラットでは13の違いがあるが、ハムスターには4つしかない。)
普通に考えてヒトの受容体の構造に近ければ、新型ウイルスがそこにくっついて感染する割合も同様になりそうですから、納得です。
アデノウイルスを利用してマウスでもヒトのACE受容体を発現するようにしたものがアイオワ大学で開発されているようですが、ヒトの症状を出しそうなマウスを作り出すには時間がいるようです。またJackson LabではCRISPR Cas9システムを用いて同様なマウスを作ろうとしたり、逆にノースカロライナ大学ではマウス本来のACE受容体によくくっつくよう、ウイルスの構造を変えたりする試みがなされているようです。他のグループではラットによる動物モデル開発も進んでいる、と紹介されていました。
他の動物だとフェレットが候補のようです。インフルエンザの研究ではヒト同様に感染するだけでなく、くしゃみをしてウイルスをまき散らすようです。ただ新型ウイルスに関しては体温上昇が認められるものの、その他の症状はなかったと報告されていました。
Infection and Rapid Transmission of SARS-CoV-2 in Ferrets
ただこの動物は口からウイルスを飛ばすので、飛沫感染やエアロゾルによる空気感染の可能性を探ることが出来たり、ヒトと同様年齢が高いフェレットで重症化の例が見られたりしているので、引き続き検討の余地があることが書かれていました。
最後にサルによる治験の有意性も描述されていました。くしゃみするだけでなく、ウイルス感染に対してワクチンによる免疫反応の変化を検証できるのもヒトに限りなく近いサルならではです。
新型ウイルスの治験モデルを決定する過程においていまだ基本的な作業を行っている段階ですが、着実に前に進んでいると感じました。こんな厳しい状況で研究を継続されている方々に対し、頭が上がりません。